子育てのしんどさとお母さんの特性

女性にとって、妊娠・出産、子育ては、人生の中で転機になり得るライフイベントと言えるのではないでしょうか。妊娠は女性にとっての環境の大きな変化ですし、出産から始まる子育ては、女性にとって初めての経験の連続なのではないでしょうか。
子育てに正解はなく、毎日が試行錯誤の連続です。その中で「どうしてこんなに苦しいのだろう」と、出口のない暗闇にいるような感覚を抱えているお母さんも少なくないのではないでしょうか。実は、その「しんどさ」の背景に女性ご自身の特性(ADHDやASD)が関わっているかもしれません。
妊娠、出産、そして子育ての時期には、それまでは自分のペースでコントロールできていた生活が、この大きな変化に飲み込まれることで、それまで隠れていた「自分自身の特性」が表面化し、深刻な状態になってしまうことがあります。
「どうして私は、他のお母さんのように穏やかでいられないの?」、「些細なことにパニックになり、我が子に抑えきれない怒りが湧いてしまう」、こうした苦しみをきっかけに当院を受診される女性の背景を紐解くと、実は「自分自身に発達障害(ADHDやASD)の傾向があるのではないか」という気づきに繋がることがあります。
妊娠は、ホルモンバランスの激変、つわり、自分の体が自分のものでなくなるような感覚など、心身ともに大きな変化の連続です。もともと感覚が過敏であったり、変化をストレスとして受け取りやすい特性を持つ人にとっては、この時期は脳と身体に大きな負荷がかかります。強い不安やイライラが長く続き、日常生活がままならないのであれば、それはSOSのサインかもしれません。
お子さんを授かる前、ひとりの女性として社会生活を送っていた時期は、環境にうまく適応できていた方がたくさんいます。しかし、育児は、自分の予定や自分なりのペースが通用しない、子どもの泣き声や予測不能な動きが脳のキャパシティを超えてしまう、マルチタスク(家事と育児の並列処理)が極限まで求められるなど、それまでの「適応」が揺さぶられることになります。それまで努力でカバーしてきた特性が明らかになり、「どうして私だけできないの」という自己否定の気持ちにとらわれがちになります。
こうした特性によるつらさは、夫婦関係に深い溝を作ることもあります。「片付けられない」「段取りが組めない」「感情が爆発してしまう」といった状態が、パートナーから「母親としての自覚不足」や「性格の問題」と誤解されてしまうこともあります。一番の理解者であってほしいパートナーに否定されたと思い、さらに追い詰められ、孤独な気持ちを強くすることになりかねません。
また、お母様が生きづらさを感じている場合、お子さんも、こだわりが強かったり切り替えが苦手だったりすることから、「育てにくさ」を感じる場合が少なくありません。
特性による「しんどさ」を抱えた母親が、特性による「育てにくさ」を持つ子を、ひとりで育てる——。この様な状況は、本来の愛情を曇らせ、強い叱責や手が上がってしまうようなことにもなりかねません。
もし、あなたが、子どもがかわいくない、子供に対する怒りを抑えることができないなどと感じているとしても、それはあなたの愛情不足でも、お母さんとしての適性がないからでもなく、あなたの特性と、お子さんの特性、そして現在の環境との間にミスマッチが起きているからなのです。
ご自分を母親失格などと責める前に、どうか私たちにご相談ください。これからのあなたとお子さん、ご家族の幸せのために何が必要かご一緒に考えましょう。